防災クッキングで万が一に備えよう!―お湯ポチャレシピと即食レシピ―

東日本大震災から今年で10年。「防災」への意識が高まっている方も多いのではないでしょうか。ただ、「非常用持ち出し袋はあるけれど、被災した場合の食事はどうすればいいの?」「電気・ガス・水道が止まったら、家で何が作れるんだろう?」と心配に思われている方もいらっしゃるかもしれません。そこで、いざという時のために“防災クッキング”を学んでおきませんか?今回は防災食のスペシャリスト・今泉マユ子さんをお招きし、電気・ガス・水道の利用が制限されていても作れるおいしいメニューを3品教えてもらいました!
パネラーの皆さんのご紹介「本イベントに参加した理由」
れいこ:「阪神大震災・東日本大震災を体験したものの、防災に関する知識が全然足りなくて。大半の人が避難所でなく家で過ごす(在宅避難)というのを聞いて、ごはんをどう作ればいいのか分からず参加しました」*お子さん2人と参加
Yuuki:「あまり知識がないので、どうやって作るのか気になって参加してみました」
タダ:「ポリ袋での調理を自分でもやっており、そういう情報を学び、オンラインなどで広めたいと思って参加しました」
しらべ:「防災クッキングという言葉を聞いたことはありますが、実際にやってみたことがないので、実践してみたいなと思って参加しました」*0歳のお子さんと参加
CHERRY:「防災関連の団体を立ち上げ、料理講座なども開催しましたが、なかなか段取りが難しく、自分が参加者になって学びたいと思いました」*小学1年生のお子さんと参加
3つの「防災ごっこ」を取り入れてみよう!
今泉: 皆さん、自分の家で防災訓練をしたことがありますか?学校や地域では行っていても、なかなか自分の家では実施したことがないと思います。訓練というと身構えてしまうので、「ごっこ」として普段の生活に取り入れていただきたいんです。私がおすすめしているのは「断水ごっこ」「もしもしごっこ」「停電ごっこ」の3つの「防災ごっこ」。
まずは「断水ごっこ」から説明していきますね。突然ですが、「これから4時間後に断水します」と告知されたら、今何をしますか?
Yuuki:水を溜めます。
今泉:そうですよね。お風呂ややかんに水を溜めたり、ペットボトルを買いに走ったり、インターネットで買ったりするかもしれません。でも、災害は予告がありません。全国で老朽化している水道管はたくさんありますので、いつどこで断水するか分からないんです。断水を経験したことがない方は、「断水したらどうなるんだろう?」と考えていただきたいと思います。朝起きてから寝るまでの間、お水を使う場面を書き出してみてください。CHERRYさん、しらべさんのところは、小さいお子さんがいらっしゃいますよね?しらべさんのところはおいくつですか?
しらべ:0歳です!
今泉:赤ちゃんがいると、もっとお水が必要になるかもしれませんね!書き出してみると、ごはんの調理、洗い物、手や顔を洗う時やトイレにも必要。備蓄しているお水だけで全部をまかなうことは難しいことが分かりますよね。それならば、優先順位を考えなければなりません。最優先はやっぱり飲料水。それ以外に「生活用水ってこんなに使うんだ」と思った方もいるのではないでしょうか。そこで、お水がなくても代わりになるものは何かを考え、代替品となるような「ウェットティッシュ」「ドライシャンプー」「歯磨きシート」などを、きちっと備蓄しておくこと、そして一度は使ってみることも大切です。また、備蓄しているお水だけで一度調理をしてみてほしいんです。そうすると1回の調理でどれくらいの水を使うかが分かります。今日は、2Lのペットボトル1本分のお水だけで調理しようと思っています。

今泉:2つ目の「もしもしごっこ」では、災害用伝言ダイヤル(171)を使ってみてほしいんです。我が家の話ですが、東日本大震災の時、中1だった娘がディズニーシーに遊びに行っていて、安否確認が取れなかったんです。翌日午後2時ごろ帰宅しましたが、安否確認がとれないと、あまりに心配で何も手につかないということが分かりました。171というのはNTTのサービスで、毎月1日と15日に体験利用ができます。171と押すと、音声ガイダンスが流れてくるのですが、「録音する方は何番、再生する方は何番」「*印を押してください」「ダイヤルしてください」と言われても子どもには難しいんです。また、安否情報を録音する時と再生する時の電話番号を同じにしておかなければなりません。家族でルールを決めておかないと、いざという時に安否確認ができないのです。いまはWEB版もあるので、お子さんやご家族など安否確認が必要な相手とぜひ一緒に練習してみてください。
3つ目は「停電ごっこ」。今まで停電を経験したことがある方、大変でしたよね?同じ場所にいる時に地震が起きるとは限りません。お風呂・トイレ・階段・玄関の外にいる時かもしれませんよね。「停電ごっこ」として、家を真っ暗にして、懐中電灯を点けてみてください。スタート地点をいろいろ変えて、どこでも点けられるように練習しておくと、この場所から一番近い懐中電灯はここだと分かります。外では街灯が全部消えると真っ暗になるので、家に帰っても鍵穴に鍵を入れることがすごく難しいんですね。そのため、私はいつも懐中電灯をポーチに入れています。皆さんスマホはお持ちだと思いますが、常にスマホがそばにあるとは限りませんし、スマホの充電は通信用に取っておきたいですよね。
「停電ごっこ」では食事も懐中電灯だけで調理して食べてみてください。懐中電灯の明かりだけで食事を作るのはすごく大変で、「明るいうちにごはんを作った方がいい」とか「懐中電灯よりランタン型がいい」ということが分かります。実は、懐中電灯の上にペットボトルを置いたりレジ袋を被せたりすると、光が拡散してランタン風になるんです。そういう工夫もできるので、まずはぜひ体験してみてください。
作ってみよう!お湯ポチャレシピと即食レシピ
今泉:では一緒に作っていきましょう!今日は「お湯ポチャレシピ」を1品、「即食レシピ」を2品ご紹介します。材料すべてが揃っている必要はありません。災害時は何が使えるか分からないので、今日は「作り方」だけ覚えてくださいね。
さて、「お湯ポチャレシピ」というのは、聞き慣れないかもしれませんが、私が名付けました。一般的には、「パッククッキング」「ポリクック」「ポリ袋調理」などと言われていますが、「高密度ポリエチレン製ポリ袋」を使って湯せん調理するレシピです。高密度ポリエチレン製ポリ袋は、「半透明」なことが特徴で、「湯せんできます」と表示があるかもしれません。

「高密度ポリエチレン」と表示のある半透明のポリ袋をご購入ください。
【今日の献立1】ツナ塩昆布パスタ ーお湯ポチャレシピー

<材料>
-
パスタ…100g
-
水…200mL
-
ツナ缶(油漬け・食塩あり)…1缶(70g)
-
塩昆布…大さじ1(6g)※味が薄ければ後で足しましょう。
-
ミニトマト…3個
-
青じそ…3枚
-
高密度ポリエチレン製ポリ袋…1枚
今泉:では「ツナ塩昆布パスタ」から作ります!まず、高密度ポリエチレン製ポリ袋の中に、パスタを半分に折って入れます。そこへ水を200mLくらい入れます。避難先ですと計量カップがないと思いますが、紙コップ1杯が約200~250mLなので、代用してくださいね。袋の中の空気をなるべく抜いて、根元からねじって巻き上げ、上の方でしっかり結びます。

ポリ袋の上の方で結んでおくと、後で結び目を切る時に便利です。
今泉:小さめの鍋にお皿を1枚入れ、鍋の半量くらいまで水を入れます。お皿を入れる理由は、高密度ポリエチレン製ポリ袋は耐熱性に優れていますが、熱で穴があくことがあるので、鍋底につかないようにするためです。ザルやアルミホイルでくるんだ紙皿でも構いません。
準備ができたら、パスタの入った袋を鍋の水にポチャン!ふたをして火を点け、沸騰したら弱火にして、パスタのゆで時間どおりにゆでます。家族みんなの分をゆでる場合には、1袋に全員分入れるのではなく、1人分ずつ袋を分けてくださいね。ゆでている間に、あと2品を作ってもいいかもしれません。
ゆで上がったら、結び目をほどくか、結び目の下を切ります。袋をねじって上の方で結んでおくことで、切っても中身がこぼれにくいんです。ツナ(油ごと)と塩昆布を入れて、よく揉みます。最後に、ちぎった青じそと、ウェットティッシュでふいたミニトマトを入れて混ぜます。袋ごと紙皿にセットして完成です!
ちなみに、コーンスープの素を入れて揉むと「カルボナーラ風」になりますよ。
【今日の献立2】ツナと切り干し大根のイタリアンサラダ ー即食レシピー

<材料>
-
切り干し大根…30g
-
ツナ缶(油漬け・食塩あり)…1缶(70g)
-
トマトジュース(低塩)…100mL ※野菜ジュースでもOK。
-
ポリ袋…1枚 ※高密度ポリエチレン製ポリ袋でなくて大丈夫です。
今泉:それでは続いて、「即食レシピ」2品、サラダとデザートのご紹介です!「即食レシピ」というのは、即作れて即食べられるという意味です。2品とも、ポリ袋で揉むだけで作れます!とっても簡単なので、お子さんと一緒に作るのがおすすめです。災害が起きた時に、「お母さんのために何か役に立ちたい」と思われるお子さんもいるそうなんです。子どもが「役に立てた!」と思えることがある、親子で取り組めることがあるって素敵ですよね。
では「ツナと切り干し大根のイタリアンサラダ」を作っていきましょう。まず、ポリ袋に切り干し大根を入れてほぐします。切り干し大根が長い場合は、ハサミで切っておきしょう。そこへ、ツナ缶(油ごと)とトマトジュースを加えます。よく揉んで紙皿にセットしたら、もう完成です!あっという間ですよね!
切り干し大根は水で戻さないので、少し固いかもしれません。ただ、支援物資はパンやおにぎりなど柔らかいものが多いので、災害の後は敢えて固いものも食べてほしいんです。しっかり噛んで唾液を出して、誤嚥性肺炎を防ぎ、脳の血流を良くするのも大切です。また、切り干し大根を水で戻さないことで、貴重な水を使わずに済むという利点もあるんですよ。
MC・Aya:今泉先生、リスナーの方から「トマトジュースが苦手です。何を入れたらいいでしょうか?」と質問が来ました!
今泉:トマトジュースでなくても、実は水分ならなんでも大丈夫なんですよ。おすすめなのは、お茶です!お茶には塩昆布が合います。リンゴジュースであれば、ねり梅が合いますよ。

MC・Aya: 皆さん、進み具合はいかがですか?
Yuuki:バタバタして準備ができていなくて、今家にある食材を探してがんばっています。
今泉:そうそう!それ最高です!災害の時は、家にある食材を探して、臨機応変に使うのが大切です!
【今日の献立3】ミックスビーンズ栗あん風 ー即食レシピー

<材料>
-
ミックスビーンズドライパック…1缶
※災害時に水を切る場所がない場合があるため、水煮よりドライパックがおすすめ。
-
ゆであずき…ミックスビーンズと同じ分量
-
きなこ(お好みで)…少々
-
ポリ袋…1枚
※高密度ポリエチレン製ポリ袋でなくて大丈夫ですが、ミックスビーンズを潰すため、分厚めの袋を選びましょう。
今泉:では最後に「ミックスビーンズ栗あん風」の作り方です!まず、ポリ袋にミックスビーンズを入れます。ミックスビーンズを缶から取り出す際、お子さんは要注意です!指を切ってしまうので、缶には絶対に手を入れないで!スプーンや割り箸などを使って、ミックスビーンズを取り出しましょう。
袋に入ったミックスビーンズを、袋の上から手で潰します。固めの豆が入っていて潰しにくい場合は、缶の裏やしゃもじで潰しましょう。そこに、ゆであずきを加え、よく揉んで紙皿にセットしたら出来上がり!お好みできなこをかけてくださいね。ちなみに私は、スプーン2本で丸めて、あんこ玉にすることが多いです。食べやすいスイーツになりますよ。

ペースト状まで潰しても、半分くらい粒を残しても。
家にある食材に置き換えて作っておこう!
MC・Aya:パネラーの皆さん、3品作ってみて、そして召し上がってみていかがでしたか?
れいこ:思っていたよりも短い時間でできるんだとビックリしています!うちはかなり備えが足りないなと自覚しました。ありがとうございました。(子どもたち)おいしいです!うまいです!
Yuuki:以前は缶詰など常備していたのですが、コロナ禍の自粛で家にいて、缶詰を使ってしまったんです。先生はどういったものを常備しているのですか?
今泉:私の家には、缶詰も乾物もレトルトもたくさんあります!去年ステイホームになった時、子どもたちに「お昼ごはん、レトルト選んできて」と言うと、「え?選んでいいの?」と、すごく楽しそうに選んでいました。何も言わずにレトルトを出すと嫌がるけれど、選べるというのは大事だなと思いました。好きなものを少し多めに常備して、前向きな気持ちで選べるといいかもしれません。
しらべ:すごくおいしかったです!こんなにおいしいものが作れるなんてビックリしました。感動しました!
今泉:ポリ袋で簡単に作れて、おいしいでしょう?

3品完成!袋のまま紙皿にセットしているので洗い物ゼロ!
今泉:最後に「お湯ポチャ」の話をもう少しだけ。実はお湯ポチャでお米も簡単に炊けるんです。高密度ポリエチレン製ポリ袋に、お米半合に対して水を半カップ入れ、ケチャップとサラミを加えてお湯ポチャすると、ケチャップライスになります!そして卵2個をポリ袋に入れてかき混ぜ、お湯ポチャを15分すると、オムレツができるんです。合わせてオムライスになりますね!さらに、さばの味噌煮とかつおぶしと水でお湯ポチャすると、お味噌汁になるんです!ここに干し椎茸を入れるとさらにおいしいですよ。このようにいろいろ試していただきたいと思っています。
大切なのは、災害が起きた時に自分の好きなものを食べられるようにするのが、自分への備えになるということです。さっきYuukiさんが「家にある食材を探していました」と言ってくださいましたが、まさにそれなんです!家にある食材を使えるようにするには、カセットコンロとボンベ、お水も必要ですね。これらを準備しておくと、いろいろお料理できると思います。災害が起きてからできることには限りがありますが、今できることはまず体験しておくことです。ぜひ今日の材料を家にある材料に置き換えて作ってみてください!今日はありがとうございました!
今泉マユ子(いまいずみ・まゆこ)
1969年徳島市生まれ、横浜市在住。1男1女の母。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食に力を注ぎ、2014年に管理栄養士の会社を起業。レシピ開発、商品開発に携わるほか、防災食アドバイザーとして全国で講演、講座を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、WEBサイトなど多方面で活躍中。