マンションの防災ってどうなっているの?家の防災を見直そう

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地震や台風などの自然災害が多い日本に住んでいると、住居の防災についても常日頃から考えたり備えておきたいところです。

マンションの防災に力を入れている「長谷工コーポレーション」が運営する「長谷工マンションミュージアム」では、防災に関する企画展を開催中。

今回は特別に現地にライブカメラが入り、マンションの防災に関するプライベートツアーを、館長の江口 均さん自らご案内頂きました。

長谷工マンションミュージアムの館長、江口 均さん

マンションのすべてが分かる「長谷工マンションミュージアム」

エントランスを入ると、白で統一された近未来的なロビーが広がります。

「長谷工マンションミュージアム」は、長谷工グループの創業80周年記念事業のひとつとして2018年にオープンした施設。集合住宅の歴史や耐震改修の技術などが展示され、1970年代のお部屋を再現したモデルルームや本物の鉄筋が見られる等、体験型のミュージアムになっています。

江口:「長谷工マンションミュージアム」へようこそ。館長の江口と申します。弊社が長年にわたり培ってきたマンションづくりの技術や想いを、こちらのミュージアムを通して体感して頂けます。本日は、マンションならではの防災に対する取り組みなどについて、ラボメンバーの皆さまと一緒に理解を深めていけたらと思っています。

早速「マンション防災展」へご案内致しましょう。

マンションの耐震基準はどうやって作られているの?

――とってもスタイリッシュな展示ですね。

江口:ありがとうございます。まずはこちらに入って頂くと、建築に関する法律がどのように制定・改定されたかについてのパネルをご覧いただけます。

――1940年以降の大きな地震の後には、建築基準法はじめ、様々な法律が制定されたり改定されているのがわかります。

江口:そうですね、1948年の福井地震後に、建築基準法が制定されました。その後1981年に大改正され、震度6強以上の地震に対して設計をする新耐震基準に則って、マンションなどが建築されています。大地震がある度に、構造や設備が進化しました。

――具体的にはどのような技術刷新があったのでしょうか。

江口:こちらの模型をご覧ください。

江口:右側の年代の古い模型から、左側の年代の新しい模型に進むにつれて、躯体が頑丈になっているのを表しています。耐震基準法が改定されるたびに、マンションに使用される柱の鉄筋の本数が増え、強度が増していきました。

――このように比べてみると、初期の鉄筋の本数がとても少なく感じられますね。

耐震、免震、制震ってどう違うの?

リスナー:「免震」「制震」という言葉も聞きますが、「耐震」とどのように違うのですか?

江口:地震に対するマンションの構造は、建物の高さ・規模などの特性に合わせて「耐震」「免震」「制震」3つの構造があります。

江口:先程ご紹介した、柱などで強化することで地震の揺れに対抗することを「耐震」と呼びます。そして最近では50階建てなどの超高層マンションも建つようになってきていますが、そこで取り入れられるのが「免震」「制震」という工法です。

超高層マンションの場合、上階になるほど揺れが大きくなるのですが、それを軽減させる装置として取り入れられているのが「免震」「制震」ですね。

――長谷工コーポレーションでは、取り組みとして、耐震性の実験もされていらっしゃるんですよね。

江口:はい、マンションの耐震性実験の模様を映像でご案内しています。実物大のマンションを実験棟の中に建てて、地震を想定して実際に揺らして実験できる装置を、国の研究機関であるE‐ディフェンスの施設を使い、共同で実験しました。

――実物大なんですか!?

江口:はい、10階建てで27.5mの高さの建物です。この建物に阪神淡路大震災クラスの地震を再現してE-ディフェンスと研究を進めています。

台風などの災害に対する取り組みは?

リスナー:自然災害には、地震以外にも、台風や大雨・洪水などがあると思いますが、どのような防災対策をされているのでしょうか。

江口:そうですね、大きな台風では強風対策が必要になります。こちらについては長谷工コーポレーション 設計部門 商品企画室の五十嵐室長からご説明させて頂きます。

五十嵐:建築基準法というものがあるのですが、マンションを作る時は窓ガラスの厚みを定められた基準風速で計算しなくてはなりません。

ところで、想定される風速は地理条件によって異なります。下のスライドの地図のように、東京は34m/sで、沖縄ですと46m/sになっています。

五十嵐:そしてマンションは、上階にいくに従って受ける風の強さも強くなります。東京と沖縄で15階建てマンションを作った場合、10階部分の窓の厚さを比較すると、東京に比べて沖縄のほうが、全体的に厚みのある窓ガラスを使用しなくてはならない計算結果になっています。

Kurumi:風の強さによって、窓ガラスの厚みを変えているとは知りませんでした。

タダ:ここまで細かくシミュレーションされて厚みを変えているとは驚きでした。

マンション自体の防災設備はどうなっている?

――今お住まいのマンションの防災設備がどのようなものがあるか、ご存知ですか?

タダ:今すぐはパッと思いつきません。。

江口:お住まいのマンションに何が備わっているのか、ご存知ないケースが多いと思います。標準装備としては、このようなものが用意されています。これらはマンション共用部で災害時に使うことを想定して備えられている一般的な例で、実物を展示しています。

ブランケット、シャベル、寝袋や救急箱などがセットになってマンションの倉庫にしまわれている

江口:地震などが起きた場合は、ライフラインが絶たれることが想定されます。特に水の供給がストップすることが想定されますので、弊社のマンションにはこちらの設備を用意しています。詳しくは、五十嵐室長からご説明します。

写真のモデルは「WELLUPミニ」

五十嵐:こちらの機械は、非常用飲料水生成装置「WELLUP」というもので、ガソリンを燃料とする発電機を接続して動くタイプになります。

直近で開発した非常用飲料水の確保の仕方についてご説明をしますと、マンション屋上から取り入れた雨水の一部を貯水し、日常の植栽への水やりに利用しながら、非常時の飲料水を確保する「スマート・ウォーター・タンク」というシステムを、弊社のマンションでは導入開始しています。

この「スマート・ウォーター・タンク」は水道水と、環境への配慮として雨水の両方を日常的に貯水しています。災害による断水時に、この「WELLUP」を利用して貯水タンクから給水し、居住者の飲料水を供給できます。2003年に非常用飲料水生成装置「WELLUP」を国内で初めて分譲マンションに採用し、2006年からは200戸以上の大規模マンションに基本仕様化して提案しています。

水道水と雨水をスマート・ウォーター・タンクに貯水しておくことで、災害時でも「WELLUP」を利用すれば、給水が可能に。

江口:これ以外にも、ガスがストップした場合、火を使うことができません。そこでこの「かまどスツール」をご用意しています。通常はベンチのようになっているのですが、蓋を開けますと、かまどのセットが入っています。災害時には炊き出し用のかまどとして利用頂けます。

水洗トイレも電気や水がストップすれば使えなくなります。そこでこのような「マンホールトイレ」という簡易トイレを用意しています。使い方としましては、マンホールの上にセットして、非常時に使うものになっています。

写真右から「WELLUP」「かまどスツール」「マンホールトイレ」

大切なのは助け合い。コミュニティで行う防災訓練

リスナー:設備以外でも、防災について備えておくべきことはありますか?

浅野:はい、こちらについては私からご説明させて頂きます。

長谷工コミュニティ 技術研修センター 専門役 浅野 幸一さん

浅野:マンション管理会社「長谷工コミュニティ」では、防災訓練サポートや、防災備品の管理などをさせていただいています。私どもの管理するマンションでは、災害が起きてしまったときを想定して、予備訓練を提案したり、実際に体験していただいています。

例えば住民の皆さんに、地元の消防署と協力して消防訓練を受けていただいたり、炊き出しを体験していただいています。さらには、これは港区の事例なのですが、実際に防災用の井戸を設置しまして、そこで住民の皆さんが井戸水を汲む訓練をされたりしています。

我々が長年力を入れているひとつに、共助環境の構築、があります。災害時に居住者同士が助け合えるように、日常生活のなかでコミュニティ形成をするお手伝いをしています。例えば、夏の暑い日にはみなさんが参加できる「打ち水大作戦」というイベントを開催し、打ち水することを通してお互いの繋がりを持って頂き、いざという災害時にも協力しあえる関係性を築いて頂けたらと思っています。

――長谷工のマンションにお住いの方々のコミュニティづくりをサポートされているのですね。ラボメンバーの皆さんがお住まいのマンションでも、同じようなコミュニティづくりの活動ってされているのでしょうか。

Kurumi:コミュニティを活性化させるような活動は、私の住んでいるマンションでは残念ながら行われていません。過去10年間様々な賃貸マンションに住んでいるのですが、一度も体験したことはないです。ただ、いざ災害が起きた時に、例えば隣の部屋に住んでいる人がどんな人なのか知らないと、ちょっと困るなと、特に子どもが産まれてからは感じるようになりました。なのでこのようなコミュニティをつくる場を設けてくださるのは、ありがたいなと感じました。

タダ:今住んでいるマンションは築5年くらいなのですが、防災訓練やコミュニティ形成もない状態ですね。少しでも勉強していけたら良いなと思っています。

――なかなか個人レベルでは動きづらいテーマだと思いますし、管理会社を通してこのような活動が増えていくといいなと感じました。

Kurumi:長らく分譲マンションに賃貸で住んでいるのですが、分譲で住まわれているかたと、賃貸で住んでいる人とでは、もらえる情報量が違うのかなと思っていました。例えば今回ご紹介頂いたような防災訓練などは、賃貸住まいの人も含めて一緒にやってらっしゃるのでしょうか。

浅野:私どもの管理している物件においては、そのマンションに住まわれている全ての住人のかた対象で、防災訓練などに参加頂いています。

Kurumi:ありがとうございます。それはいいですね。

未来のマンションの災害対策とは?

――これまでは現在のマンション防災を見てきましたが、これからの防災のありかたについて、江口館長からご説明頂きます。

江口:未来のマンション防災として取り組んでいることがあり、そのうちのいくつかをご紹介しますと、「次世代モビリティ」「救援ドローン」が挙げられます。

「次世代モビリティ」とは、例えば普段はマンション内を自走する「宅配ボックス」のようなものを考えていまして、災害時ではこれが防災用の物資を超高層マンションの上層階まで届ける役割を果たします。もしくはご老人が階段で上り下りができなくなった際に搬送できるように活用できないかと、今まさに開発を進めているところです。

「救援ドローン」はセキュリティ会社と連携して、ドローンを使用して救援物資をマンションの該当箇所に届ける仕組みを検討しています。実験段階中なのですが、例えばマンションのバルコニーから荷物を届けるような仕組みですね。

いずれも、導入の際には法改正が必要になるため、実用化まではもう少し時間がかかりそうです。

ラボメンバーから活発な質問が飛び交います

Kurumi:色々と教えて頂きありがとうございました。マンションの規模によると思いますが、例えば戸数によって備蓄している物の量は変えているのでしょうか。トイレの場合、どんな規模のマンションでも1台しか備蓄されていないのか、もしくはマンションの戸数に比例していくつも置いてあるのか。備蓄の量の目安があれば教えて下さい。

江口:当社で設計施工する場合は、200戸以上の規模のマンションに対して、世帯数に合わせて数を用意しています。それ以下の戸数の規模のマンションになりますと、例えば分譲マンションの事業主様のお考えに沿って備蓄量を決めている状況です。

マンションの規模に関わらず、マンションが建つと管理組合が結成されます。管理組合の理事の方々が管理会社の提案を受け入れて、それを理事会にかけて、住民の皆さんに説明をして内容を決めていくようなプロセスが一般的です。

タダ:今日はありがとうございました。「長谷工マンションミュージアム」は一般の方も見学できるのでしょうか?

江口:はい、見学頂けます。事前にお電話を頂いてご予約頂く流れになっております。防災展以外でも、8つの展示コーナーがありますので、ぜひお越しください。

Kurumi:「WELLUP」について質問です。あちらを使った給水は、何人が何日分くらい使用できるのでしょうか。

江口:1日1人3リットルの使用を想定した場合、1日4,800人の飲料水を供給することが可能です。そして浄水フィルターの不具合がなく、さらに給水タンクや井戸水などの水が枯れなければ、約1週間程度は給水が可能です。

Kurumi:ありがとうございます。

江口:防災対策への関心は高まっているものの、やはり住人同士の「共助」、つまり助け合う気持ちを持つことが大事だと感じます。そのためにも住人の皆さまが、例えば防災訓練やコミュニティ活動の参加などを通して、日頃から共助を心がけて頂けると良いかなと思います。

――本日はありがとうございました!

江口 均
長谷工テクニカルセンター/長谷工マンションミュージアム 館長

1980年 長谷川工務店(現 長谷工コーポレーション)入社
設計・デザイン室室長を経て2018年 長谷工テクニカルセンター、長谷工マンションミュージアム館長に就任。マンションのことならなんでもわかる“長谷工マンションミュージアム”において、唯一無二の知識量と親しみやすい人柄でこれまで数多くのお客様をご案内している。

五十嵐 直樹
長谷工コーポレーション 設計部門 商品企画室 室長

1992年 長谷工コーポレーション入社
技術開発室、設計を経て2017年より商品企画室 室長に就任
お客様により「安全・安心」な住まいを提供するため、日々商品企画にあたっている。

浅野 幸一
長谷工コミュニティ 技術研修センター 専門役

1975年 長谷川工務店(現 長谷工コーポレーション)入社
施工現場を経験後、マンション管理会社である長谷工コミュニティへ異動し、技術開発や生活支援サービスの運営推進を担当
管理会社ならではの防災・減災対策を提案している。

長谷工マンションミュージアム
https://www.haseko.co.jp/hmm/
住所:東京都多摩市鶴牧3-1-1
入館料:無料
見学方法:事前予約制
予約方法:お電話にて受付中(予約受付専用フリーダイヤル:0120-808-385)

手元や高い所などを視聴者にわかりやすく実況中継するために、株式会社デベロップジャパンのオンライン接客サービス「Air-DAM(エアーダム) https://www.djuxd.com/solution/air-dam.html」を使用しました。